藍染めには大きく分けて、天然の蒅(すくも)を使った「本藍染め」と、化学合成されたインジゴを使った染め方の2種類があります。見た目の色は似ていても、素材の出どころも、染め場での作業も、布への定着の仕方も、まったく異なります。本藍染めがなぜ手間がかかるのか、その仕組みを順を追って説明します。
蒅とは何か ¶
蒅(すくも)は、蓼藍(たであい)という植物の葉を発酵させて作った染料の原料です。徳島県は江戸時代から蒅の産地として知られており、現在も少数の農家が伝統的な製法で生産を続けています。蓼藍の葉を刈り取り、積み重ねて水をかけながら数ヶ月かけて発酵させると、青みを帯びた塊になります。これが蒅です。化学合成のインジゴと異なり、蒅には発酵由来の有機物が含まれており、それが染め上がりの深みや風合いに影響すると言われています。
甕を建てるとはどういうことか ¶
本藍染めでは、蒅を甕(かめ)の中で再び発酵させて染め液を作ります。この作業を「甕を建てる」と言います。蒅に灰汁(あく)、ふすま(小麦の外皮)、石灰などを加えて混ぜ、毎日かき混ぜながら温度を管理します。甕の中の微生物が活発に働くと、染め液が青みを帯びた緑色になり、表面に泡が立ちます。この状態になって初めて布を染めることができます。甕が「死ぬ」(発酵が止まる)と、染め液は使えなくなります。Indigo Oak Meadowでは、甕の状態を毎日手で確認し、温度と灰汁のバランスを調整しています。
染め工程と色の深さ ¶
布を染め液に浸けて引き上げると、最初は黄緑色に見えます。空気に触れると酸化して青くなります。この「浸ける・引き上げる・酸化させる」を繰り返すことで、色が深くなっていきます。薄藍は1〜2回、中藍は3〜4回、濃藍は5回以上の浸けを行います。化学染料の場合は一度の浸けで色が定着しますが、本藍染めは繰り返しの工程が色の深みを作ります。
色落ちと「育てる」感覚 ¶
本藍染めは洗うたびに少しずつ色が変化します。これは欠点ではなく、本藍染めの特性です。最初の数回の洗濯で余分な染料が落ち、その後は安定した色になります。長く使うほど布に馴染んだ色になり、「育てる」感覚で付き合えるのが本藍染めの魅力のひとつです。化学染料の藍染めは色落ちが少ない反面、経年変化の味わいも出にくい傾向があります。
化学染料との見分け方 ¶
本藍染めと化学染料の藍染めを見分けるのは難しいですが、いくつかの目安があります。本藍染めは色の深みに微妙なムラがあり、同じロットでも一枚ずつ少し違います。また、染め上がりの布を光に透かすと、緑みを帯びた青が見えることがあります。購入時には、使用している染料の種類と産地を確認するのが確実です。
本藍染めは手間がかかる分、布との付き合い方も変わります。色の変化を楽しみながら長く使う。それが、手染めの藍布を選ぶ理由のひとつだと思っています。